東京高等裁判所 平成2年(ネ)4174号 判決 1992年5月28日
控訴人
岡ヨキ
被控訴人
国
右代表者法務大臣
田原隆
右指定代理人
若狭勝
外五名
主文
一 原判決を取り消す。
控訴人の請求は、当審における追加請求を含め、いずれもこれを棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一原判決を取り消す。
二被控訴人は控訴人に対し、別紙物件目録記載の土地を下付せよ。
三被控訴人は、別紙物件目録記載の土地について、新潟地方法務局小千谷出張所に対し、旧河川法(明治二九年法律第七一号)の規定による河川敷地成を原因とする所有権登記抹消嘱託手続をせよ(追加請求)。
第二事案の概要
一本件は、控訴人の夫岡正勝(以下「正勝」という。)の先々代岡米吉(以下「米吉」という。)の所有であった別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき、明治三二年九月二九日旧河川法(明治二九年法律第七一号。現行の河川法(昭和三九年法律第一六七号)及び河川法施行法(昭和三九年法律第一六八号)の施行により昭和四〇年四月一日廃止。なお、旧河川法に対し、現行河川法を「新河川法」という。)二条の規定に基づく信濃川の河川区域の認定がなされたのに、河川管理者が、旧河川法の規定による河川敷地成を原因とする所有権登記抹消嘱託手続をせず、かつ、その後昭和五〇年四月八日河川区域の廃止をしたのに、亡米吉の相続人である控訴人に対し、旧河川法四四条ただし書の規定(新河川法施行法一八条の規定によりなお効力を有するものである。)に定める下付を行わないまま放置しているとして、被控訴人に対し、下付と所有権登記抹消嘱託手続をするように求めるものである。
控訴人の主張によれば、本件土地は、小千谷市高梨町字北古川五一二一番四及び五、五一二二番一ないし三、五一三二番二ないし六、五一三三番一及び二、五一一八番九の各土地の一部に該当する土地である(別紙図面参照)。
1 争いのない事実及び証拠等上明らかな事実
(一) 本件土地は、もと米吉所有の土地であり、同人のため明治二八年二月二五日付けで所有権移転登記(原因同日売買)がなされているが、その後有限責任高梨荒地生産組合のため大正九年一二月一三日付けで所有権移転登記(原因大正八年一〇月一〇日売買)がなされている。
なお、本件土地を含む一帯の土地では片貝町農業協同組合によって土地改良事業が施行され、昭和五四年九月二二日行われた換地処分による不換地により本件土地の登記簿は同年一一月七日閉鎖されている。
(<書証番号略>、弁論の全趣旨)
(二) 米吉は、大正九年三月一四日死亡し、岡喜一郎(以下「喜一郎」という。)が家督相続をしたが、同人も昭和二四年七月一日死亡した。亡喜一郎の相続人は、正勝ほか三名であったところ、このうち、正勝が昭和三三年一〇月一九日死亡し、控訴人及び岡正一(以下「正一」という。)ほか二名が亡正勝の相続人である。
有限責任高梨荒地生産組合は、その後昭和八年一〇月一六日の保証責任高梨土地利用組合とする名称変更を経て、昭和二五年一〇月七日さらに高梨土地利用生活協同組合に組織変更された。
(<書証番号略>、弁論の全趣旨)
(三) 信濃川は、明治三〇年九月一一日内務省告示第六〇号(官報第四二六〇号)により旧河川法一条の河川に指定され、同年一〇月一日同法の施行によりその適用河川となった。そして、明治三二年九月二九日新潟県告示第二五八号(新潟県公報第五〇四号)により信濃川の河川区域の認定がなされ、右河川区域内の土地については大正四年一〇月までに河川敷地成を原因とする所有権登記の抹消がなされた。
その後昭和四〇年四月一日新河川法及び新河川法施行法が施行され、旧河川法は廃止されたが、旧河川法の規定による河川区域のうち新河川法六条一項一号又は二号の区域でない区域については、政令で定める日までの間は、当該期間内に廃川敷地等となったものの区域を除き、新河川法の規定による河川区域とみなされることになった(新河川法施行法三条参照)ところ、信濃川を管理する北陸地方建設局長は、新河川法施行令(昭和四〇年政令第一四号)四九条の規定に基づき、昭和五〇年四月八日付け官報により「1 河川の名称 信濃川水系信濃川 2 廃川敷地等が生じた年月日 昭和五〇年四月八日 3 廃川敷地等の位置 (1)ないし(3)(省略)(4) 小千谷市高梨町字北古川四〇六九番地先から同市同町同字三九六八番の一地先まで (5)ないし(8)(省略) 4 廃川敷地等の種類及び数量 土地 (1)ないし(3)(省略)(5)17万6368.94平方メートル(5)ないし(8)(省略) 計80万4613.78平方メートル」として、廃川敷地等が生じた旨の公示(以下「本件廃川敷地公示」という。)をし、その関係図面を同局及び同局長岡工事事務所に備え置いて縦覧に供した。
なお、米吉所有の土地で本件土地の近くにある小千谷市高梨町字北古川四〇四〇番地の土地(以下「四〇四〇番地の土地」という。)については、河川区域に編入されていたところ、本件廃川敷地公示後、亡米吉の相続人である正一の申請を受け、同人に対し下付された。
(<書証番号略>、弁論の全趣旨)
2 争点
(一) 本件下付請求の訴えの相手方は、被控訴人ではなく、北陸地方建設局長であるか。また、本件下付請求の訴えは、いわゆる義務付け訴訟に該当するか否か。
(二) 本件土地は、信濃川の河川区域内の土地であって、本件廃川敷地公示に係る廃川敷地に含まれるか否か。
(三) 米吉が有限責任高梨荒地生産組合に本件土地を売り渡したことがあるか否か。仮に売渡しがなされたとしても、本件土地が既に河川区域に編入されていたことにより私権の目的とならないため、右の売買契約は無効であるか否か。
(四) 控訴人が亡正勝の遺産につきなした相続放棄の申述が無効であり、かつ、その後亡喜一郎及び亡正勝の相続人全員の協議により控訴人と正一が亡米吉の遺産を相続をする遺産分割の協議が成立し、さらに控訴人が正一からも相続持分の譲渡を受けたことにより亡米吉の相続人たる地位を有するか否か。
二証拠<省略>
第三争点に対する判断
一下付請求について
1 争点(一)について
旧河川法四四条ただし書の規定(新河川法施行法一八条の規定によりなおその効力を有し、その手続については、新河川法施行令(昭和四〇年政令第一四号)附則七条が適用される。)に定める下付は、旧河川法二条一項に定める河川区域内となった土地につき、河川敷地の公用が廃止されたとき、右の河川区域の認定がなされた当時の所有者又はその一般承継人(単に「旧所有者」という。以下同じ。)の申請を受けてなされるところの、国から旧所有者に対する当該土地の譲渡を内容とする制度であって、私権排除を定めた旧河川法三条の規定により補償なしに所有権を喪失するに至った当該土地の所有者をして河川敷地の公用が廃止されたのを機に所有権を回復させることを目的とするものである。そして、右の四四条ただし書の規定において、この法律施行前私人の所有権を認めた証跡があるときはその私人に下付すべき旨が定められていることからすると、廃川敷地管理者(新河川法九一条、九条、一〇条)が同規定に定める下付をしないために申請をした旧所有者において提起する下付請求の訴えは、旧所有者が当該土地の帰属する国に対して行う当該土地の譲渡の申入れに対する承諾の意思表示を求める権利を訴訟手続によって行使するものにほかならない。したがって、右の訴えは、当該土地の帰属主体である国を相手方として国の機関である廃川敷地管理者による譲渡の意思表示を求める通常の民事訴訟であると解するのが相当である(河川区域内の土地が国に帰属することにつき、新河川法施行法四条の規定参照。なお、最高裁昭和四六年一月二〇日大法廷判決・民集二五巻一号一頁、最高裁昭和四七年三月一七日第二小法廷判決・民集二六巻二号二三一頁各参照)。そうすると、本件訴訟は、旧所有者である控訴人が、信濃川の河川区域に編入された本件土地につき、その後右の河川区域が廃止されたにもかかわらず、廃川敷地管理者である北陸地方建設局長において下付をしないとして、譲渡の意思表示を求めるものでるから、その相手方は国であるというべきであって、本件訴訟に相手方を誤った違法は存しない。また、本件訴訟は、信濃川の管理者である北陸地方建設局長に対し下付という行政処分を求めるものではないから、いわゆる義務付け訴訟に該当しない。この点についての被控訴人の主張は理由がない。
そして、右に述べた下付制度の趣旨及び目的に照らせば、廃川敷地管理者は、当該土地が所有権の補償なしに旧河川法による河川区域に認定されたものであり、かつ、下付申請が旧所有者によってなされたという要件を充たす場合には、当該下付申請を拒み得ないものであり、手続的には、下付請求権者が、従前の土地所有権の証跡を証する閉鎖登記簿謄本等により旧所有者であることを明らかにして下付申請をした場合には、河川区域編入を原因とする抹消に係る所有権登記による所有者の推定を覆すに足りる証拠の存しない限り、旧所有者であることの証明があったものとして取り扱う必要があるといわなけばならない(なお、昭和五〇年八月四日建設省河政発第二七号河川局水政課長通達参照。)したがって、本訴請求の内容である下付申請の当否の判断に当たっては、対象土地が閉鎖登記簿上の表示により特定されておれば足りるというべきである。けだし、下付請求権の行使は、旧所有者が河川敷地の公用が廃止され、廃川敷地となった土地につき譲渡の意思表示を求めるものであって、当該土地の引渡し自体を直接の目的とするものではなく、下付申請者が登記簿上の表示に従って対象土地を特定しているならば、廃川敷地管理者は右表示で申請対象地について廃川敷地に含まれるか否かの判断が可能であるからである。のみならず、廃川処分の行われる河川にあっては、河川区域の認定後における地形の変化等によって当該土地を現地において具体的に特定することの困難な場合が少なくないが、このような場合、下付申請者において自ら下付されるべき土地を現地において特定しない限り下付請求権を行使することができないというのであれば、旧所有者にとって下付請求権を行使することが事実上困難とならざるを得ないけれども、このような事態は、公用のため私権を排除された者に公用廃止後私権を回復させることを目的とする下付制度の予定するところでないと解せられる。それゆえ、下付請求を受けた廃川敷地管理者は、河川区域の認定後における地形の変化によって申請対象地につき個別にその範囲を現地において特定することが困難な場合でも、当該土地を含む一団の申請対象地が廃川敷地であり、下付申請者がいずれも申請対象地の旧所有者であると判断することができるならば、旧所有者全員に対し共有の形式で右の一団の廃川敷地を下付する方法を採るなど、出来る限り申請に応じて下付すべきものであり、かかる措置に出ることなく申請対象地を現地において特定することができないことを理由に旧所有者の下付申請を却下することはできないといわなければならない。そうすると、控訴人は、下付申請に係る土地を登記簿上の表示(所在、地番、地目、地積)をもって明らかにしているのであるから、本件土地が廃川処分のあった土地であるか否か、また、控訴人が旧所有者といえるか否かはさておき、下付の申請対象である土地の特定についていう限り、これに欠けるところはなく、この点で、本件下付請求の訴えが不適法であるということはできない。
なお、本件土地を含む一帯の土地は、戦後の堤防の築造や土地改良事業における区画整理の結果、米吉が本件土地を所有していた当時とは土地の様相が大きく変化しており(<書証番号略>、弁論の全趣旨)、控訴人が原審で試みた方法によっては現地における本件土地のおおよその所在は推測できても、その範囲につき固定的な基準点からの方位、距離による測定がないため、現地において具体的に特定されていないといわなければならないが、米吉の所有土地で本件土地の近くにある四〇四〇番の土地は、前記のとおり正一に下付されているのであって、右の下付に当たって作成された実測図等(<書証番号略>)を用いるならば、本件土地を現地において特定することも不可能ではないと認められる。
2 争点(二)について
控訴人は、信濃川の本件土地付近における河川区域の認定線につき、河川台帳の河川平面図の正本である切図(<書証番号略>)のほか更正図(<書証番号略>)、丈量図(<書証番号略>)及び北古川第一図・第二図(<書証番号略>)を同一縮尺で再製して現況図(<書証番号略>)に重ね合わせて作成した照合図(<書証番号略>)に基づき、被控訴人の主張する右切図に表示された青色実線よりもさらに西寄りの崖地等に沿った線が右の認定線であって、本件土地は河川区域内の土地である旨主張し、これに対し、被控訴人は、河川区域の認定線は、右切図に表示された青色実線であって、本件廃川敷地公示に当たり、前記のとおり廃川敷地等の位置を「小千谷市高梨町字北古川四〇六九番地先から同市同町同字三九六八番の一地先まで」として公示をしたが、これは、右の四〇六九番地先から三九六八番の一地先までの間に存在する従前河川区域として認定されていた土地を廃川敷地等としたものであって、四〇六九番及び三九六八番の一の両土地や地番上三九六八番の一から四〇六九番の間に位置する地番の本件土地を廃川敷地としたものではない旨主張する。
旧河川法の下では、河川は原則として地方行政庁(府県知事)においてその管内に係る部分を管理すべきものとされるとともに(旧河川法六条、七条)、地方行政庁は命令をもって定める台帳の調製、保管、記載事項等に関する規程に従ってその管理に属する河川の台帳を調製し、主務大臣(内務大臣)の認可を受けなければならず、かつ、主務大臣の認可を経た台帳に記載された事項に関しては反対の立証を許さないとされていた(旧河川法一四条)。そして、右の河川台帳は、帳簿と実測図からなり、河川の敷地及び堤外地の区域、河川に影響を及ぼすべき水流及び水面の種類、数量及び位置形状等の事項が記載されるが、府県知事は、その調製に係る河川台帳につき地元市參事会及び町村長の意見を徴し、かつ、利害関係者に意見を申し立てる機会を与えるため市役所及び町村役場において公衆の縦覧に供した上、右の意見書等とともに提出して内務大臣の認可を受けるとともに、内務大臣は、認可した河川台帳の原本を自ら保管し、また、右原本につき調製された正本については土木監督署長が、また、その管内に係る副本については地元市參事会及び町村長がそれぞれ保管するものとされていた(明治二九年勅令第三三一号「河川台帳ニ関スル件」)。さらに実測図である河川平面図の作成に当たっては、縮尺一二〇〇分の一の図面とし、川敷並びに堤敷の境界はすべて折線をもって区画し、右折線の交叉点は河川の両岸に設置した二箇の基標若しくはこれに準ずる測標を連結する直線に基づき支距法により測定し、川敷の区域は青色実線をもって、基標及び測標連結線は朱色実線をもってそれぞれ記入するが、右の基標、測標の位置及び高さ並びに近接基標、測標との角度及び距離等も記載するものとされていた(明治二九年内務省令第一三号「河川台帳ニ関スル細則」)。このように、河川台帳の調製及び保管については、慎重かつ厳重な方式と手続が定められていたものであり(なお、河川台帳は、旧河川法施行の日より二年以内に調製すべきものとされていた。)、河川台帳を構成する実測図(河川平面図)の正本である切図の正確性は担保されているものと認められる。そして、本件土地のある旧三嶋郡高梨村内の切図である<書証番号略>(以下「本件切図」という。)も、その方式及び内容から右に述べた河川台帳調製のための方式に準拠して作成されたものと認められ、反証のない限り手続面でも前記法令の定めるところに従い作成されたものと推認すべきものである。控訴人は、河川台帳の実測図の原本が現行河川法施行後廃棄されて存在しない上、本件切図上河川区域を示す青色実線が相当に距離のある二地点を結ぶ直線で表示されているのは信濃川における流水地の状況等からして不自然であるなどとして、本件切図は変造されたものであると主張するが、河川台帳の実測図の原本が存在しないからといって直ちにその正本である本件切図が変造されたということはできないし、また、本件切図上河川区域を示す青色実線が控訴人主張のように信濃川が蛇行するなかで相当に距離のある二地点を結ぶ直線で表示されているというだけで河川区域の認定線として不自然であると決め付けることはできず、他に本件切図が変造されたとする控訴人の主張を裏付ける証拠はない(なお、地元土地所有者による測標の所在地点に関する証明書である<書証番号略>によっても、二地点分については測標の位置が本件切図上の測標の位置とおおむね一致し、本件切図が正確な実測図であることが窺えるのであって、本件切図が作成された後一帯の土地の地形が変化する過程で測標の一部についてはその位置が変更された可能性も否定できないことからすれば、同じく地元土地所有者による測標の所在地点に関する証明書である<書証番号略>によると、測標の一つが本件切図上の測標の位置と符合しない地点にあるからといって、本件切図が変造されたものであるということはできない。)。
本件切図によれば、信濃川左岸側の旧古志郡石津村との郡境に近い信濃川の分流と田成川と表示された河川の間に挟まれた細長い土地の中間付近に川敷線である青色実線が表示されており、川敷線と符合する形での崖地、堤防、道路、河川等の特徴的な地形はないことが認められ、一方、公図写と更正図写である<書証番号略>(亡勝野隆一郎が明治四〇年ころ作成したものであるという。)、<書証番号略>(明治二六年調製)、<書証番号略>でも、信濃川の分流とみられる河川ともう一つの河川に挟まれた細長い中洲状の土地のうちに本件土地は位置するものと表示されているところ、現況図である<書証番号略>に本件切図のほか右更正図や下付対象地を特定する目的で作成された丈量図である<書証番号略>の各図面を同一縮尺で再製して重ね合わせて作成した照合図である<書証番号略>によると、本件土地は、戦後築造された堤防を基準として本件切図に表示された青色実線よりもさらに西側寄りの堤内側に位置し、信濃川の河川区域内に含まれないことが認められる。また、更正図である<書証番号略>では、前記中洲状の土地のうち東側寄りの土地が河川敷と表示されているのに対し、本件土地を含む西側寄りの土地は畑等と表示されていることが認められる。さらに、右照合図上、本件切図に表示された川敷線と更正図に表示された河川敷地と畑等の民有地とを分ける官民境界線は、全体としては一致する関係にないものの(更正図は、もともと租税徴収の目的で作成されたものがいわゆる公図すなわち土地台帳付属地図として用いられるようになったものであり、土地の形状や位置関係についてはおおむね土地の実際の状況を伝えるものであっても、土地相互間の距離関係等における実測図としての精度は、河川管理の目的で前述の方式及び手続により作成された実測図である切図に比して格段に劣るものがあり、更正図と切図の作成時期も異なることからすると、両図面を照合した場合に右のような不一致が生ずるのもやむを得ないところである。)、本件土地付近では比較的接近した位置関係にあるのに対し、控訴人主張の河川区域の認定線によると、本件土地付近でも右認定線と更正図上の官民境界線とはさらに大きく食い違った位置関係になることが認められる。そうすると、控訴人の河川区域の認定線に関する主張はかえって採用し難いものであるといわなければならない(なお、本件土地につき有限責任高梨荒地生産組合のため大正九年一二月一三日付けで所有権移転登記(原因大正八年一〇月一〇日売買)がなされていることは、本件土地が河川区域の認定を受けなかったことを窺わせるものである。)。
また、本件廃川敷地公示においては、廃川敷地等の位置が「小千谷市高梨町字北古川四〇六九番地先から同市同町同字三九六八番地の一地先まで」として公示されているが、縦覧に供するため北陸地方建設局及び同局長岡工事事務所に備え置かれた関係図面である<書証番号略>によれば、本件土地は廃川敷地に含まれてはおらず、この点からも、本件土地が河川区域内の土地であるとは認められない。
したがって、控訴人の下付請求は、本件土地が河川区域に編入されたとする点でも、また、河川敷地の公用の廃止があったとする点でも、その立証がないため、その余の争点につき判断をするまでもなく、理由がない。
二所有権登記抹消嘱託手続請求について
控訴人は、明治三二年九月二九日本件土地が信濃川の河川区域内に編入されたことを前提に、当時の河川管理者が本件土地につき所有権登記抹消嘱託手続を怠っており、旧所有者のため右の嘱託手続をする義務があると主張するが、河川区域内に編入された土地については河川管理者において職権で所有権登記抹消嘱託手続をすべきものであり、旧所有者が右の嘱託手続を請求しうる実定法上の根拠はないのみならず、右一で説明したとおり、本件土地が河川区域内に編入された事実を認めることはできないから、いずれにせよ控訴人の所有権登記抹消嘱託手続請求は理由がない。
第四結論
以上のとおり、本件の下付請求及び所有権登記抹消嘱託手続請求はいずれも理由がなく棄却すべきところ、本件土地の特定を欠くことを理由に控訴人の下付請求に係る訴えを却下した原判決は不当であって、取消しを免れないが、原審で念のため請求の当否についても判断を加えていることにかんがみ、右請求につき、本件を原審に差し戻すことなく、当審において追加した所有権登記抹消嘱託手続請求を含め、控訴人の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官犬飼眞二 裁判長裁判官大石忠生、裁判官渡邉温は、転補につき署名捺印することができない。裁判官犬飼眞二)
別紙物件目録
所在 新潟県小千谷市高梨町字北古川
地番 四〇五〇番
地目 畑
地積 四六八七平方メートル
ただし、昭和五四年九月二二日土地改良法の換地処分による不換地前の土地の表示である。
別紙図面<省略>